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名古屋高等裁判所 平成7年(行コ)23号 判決

三重県四日市市野田一丁目九六五番地の一

控訴人

株式会社ニューキング

右代表者代表取締役

松永正男

右訴訟代理人弁護士

浅井得次

三重県四日市市西浦二丁目二番八号

被控訴人

四日市税務署長 村井修二

右指定代理人

加藤裕

藤居正樹

木村勝紀

小田嶋範幸

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人は、

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人の原判決別表1ないし3記載の各事業年度(以下、各事業年度を順に「昭和五〇年六月期」、「昭和五一年六月期」、「昭和五二年六月期」という。)の法人税について、昭和五四年一二月七日付けでした各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各重加算税の賦課決定処分を取り消す。

3  被控訴人が、控訴人の昭和四九年一二月から昭和五一年三月まで、同年五月、同年七月及び同年九月の各月分の源泉徴収に係る所得税について、昭和五四年一二月二四日付けでした原判決別表4記載の納税告知並びに不納付加算税の賦課決定(以下右納税告知と右賦課決定を併せて「本件告知処分等」という。)を取り消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求めた。

二  被控訴人は、控訴人棄却の判決を求めた。

第二事案の概要

本件は、控訴人が、パチンコ店を経営する会社であるところ、その売上金の一部を除外して所得の過少申告をしたとしてなされた本件各更正処分等並びに右売上除外金を控訴人の実質上の経営者に支給したのは役員賞与になるとしてなされた源泉所得税に係る本件告知処分等が違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。

本件の争いのない事実、争点及びこれについての当事者の主張は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実及び理由欄の第二の一ないし三に記載のとおりであるからこれを引用する。

(原判決の訂正)

原判決六枚目表一〇行目の「二七〇万九四八〇円」を「二七五万九四八〇円」と、同七枚目表一〇行目の「本件各更正処分と同額」を「本件各更正処分の範囲内のもの」と、同別表1ないし4の異議決定年月日欄の「昭和五五・四・二」を「昭和五五・四・二四」と、同別表8の売上除外金額欄の「四〇五万〇〇〇〇円」を「四一〇万〇〇〇〇円」と、同表所得金額欄の「二七〇万九四八〇円」を「二七五万九四八〇円」とそれぞれ改める。

(控訴人の主張)

一  本件各更正処分の手続上の違法性について

1 国税通則法及び法人税法は、「その調査により」更正できる旨規定しているが、その調査は当該税務職員の調査をいうのであって、国税査察官による調査は含まれないところ、被控訴人は、本件各更正処分を行うに当たり、国税査察官による調査結果を使用して右各処分を行った違法がある。

2 そして、このような観点から本件各更正処分を検討すると、被控訴人の担当税務職員が、自ら「実質的な調査」を行わず、国税査察官による調査結果を鵜呑みにして本件各更正処分を行ったものであることは、被控訴人の担当税務職員による、本件各更正処分の対象となっている昭和五〇年六月期の全期間及び昭和五一年六月期のうち八か月間の帳簿書類の調査がなされなかったこと等本件各更正処分に至るまでの経緯から判断できるところであるから、本件各更正処分には、手続上の違法があることを免れない。

二  簿外経費について

控訴人は売上除外金から近藤弘、清水孝に機密費として一か月一五万円を支払っていた。昭和五一年三月から同年九月までの七か月間の一〇五万円については、簿外交際費として所得から減算すべきである。また、原判決は、控訴人が昭和四九年一二月から昭和五一年九月まで売上除外をしていたと認定したが、売上除外をしたときから機密費を支払っていたのであるから、右期間の一九か月の一か月一五万円、合計二八五万円を所得から減算すべきである。

(被控訴人の認否)

一  控訴人の主張一は争う。

二  控訴人の主張二は争う。

控訴人が近藤らに支払った機密費の額を認定できるのは、控訴人の経理担当者神谷が作成していた元帳と題する簿外取引を記した金銭出納帳(乙第二号証)及びその記載内容を供述した同人の検面調書(乙第五号証)のみからであるところ、右乙号各証から認定できる機密費の具体的金額は、昭和五一年六月期六〇万円、昭和五二年六月期五〇万円であって、控訴人の右主張は失当である。

第三証拠関係

原審及び当審の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきものであると判断する。その理由は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実及び理由欄の第三に記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決の訂正

原判決一一枚目表一一行目「松永尚一」を「松永尚市」と、同裏一行目「五一年」から同二行目「普通預金元帳」までを、「昭和五一年九月以前の総勘定元帳、同年二月二七日以降の売上除外等の簿外取引を記載した金銭出納帳(乙第二号証)」と、同一四枚目表六行目「三六〇万円」を「四一〇万円」と、同一六枚目表一行目「同額であること」を「同額ないしその範囲内であること」とそれぞれ改める。

二  控訴人の主張一について

1  まず、控訴人は、査察調査で収集された資料を課税処分に利用することは許されない旨の主張をするが、国税通則法二四条は、その調査方法についてはなんら定めるところがなく、いかなる調査方法によるかは課税庁の裁量に委ねる趣旨と解せられるから、被控訴人の担当税務職員が査察調査で適法に収集された資料を課税処分の資料として利用して本件各更正処分を行ったとしても、手続上なんらの違法を来すことはない。

2  控訴人は、本件各更正処分は、被控訴人の担当税務職員による「実質的な調査」を経ずになされたもので、手続上違法である旨主張するが、原本の存在及び成立につき争いのない乙第一ないし三号証、第六、七号証、成立に争いのない乙第二八号証、原審証人内田隆久の証言により真正に成立したものと認められる乙第二六、二七号証、第二九号証、原審証人内田隆久の証言に原審認定事実を総合すると、被控訴人の調査官は、昭和五四年一一月八日及び同月九日に控訴人の事務所において控訴人の帳簿書類等の調査を行い、また、同月二〇日及び同月二一日には名古屋地方検察庁において押収されていた控訴人の帳簿書類等(昭和五一年九月以前の総勘定元帳・売上除外等簿外取引を記した現金出納帳(乙第二号証)を含む。)の調査を行った上、同月二二日ころから二五日ころまでの間は、自ら収集した資料や査察部等が収集した資料(この中には梶原和豊及び北川三郎名義の各預金元帳に係る証明書があったものと認められる。)等の分析・検討を行った結果、本件各更正処分をするのを相当と判断したことが認められるから、本件各更正処分が「実質的な調査」を経ずになされたものとはいえず、したがって、控訴人の右主張は、採用できない。

三  控訴人の主張二について

控訴人は、売上除外をしていたときは近藤弘及び清水孝に対して機密費を支払っていたのであるから、昭和四九年一二月から昭和五一年九月までの期間に売上除外を行っていたとするのであれば、右の一九か月間、一か月一五万円合計二八五万円の機密費を簿外経費として認定すべきである旨主張するが、控訴人が専ら機密費支払資金を捻出するためだけに売上除外を行っていたとか、あるいは、原判決の認定額である昭和五一年六月期六〇万円、昭和五二年六月期五〇万円を超えて機密費を支払ったとかを具体的に裏付けるに足りる証拠はない。かえって、原判決挙示の証拠によれば、控訴人は、控訴人の実質的経営者の松永の指示により、原判決が認定する期間、その認定額の売上除外を行った上、その相当分は簿外賞与として同人に支払っていたことが認められ、専ら機密費支払資金を捻出するためだけに売上除外を行ったものでないことが認められる。そうすると、控訴人の右主張は採用できない。

第五結論

よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 菅英昇 裁判官 筏津順子)

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